「東大卒プロゲーマー」ときど:キーワードは”社会性”
コーハマです。
朝日新聞の書評欄から気になる新書の紹介があったので読んでみた。
※ネタばれ注意
東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない (PHP新書)
- 作者: ときど
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2014/10/03
- メディア: Kindle版
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徹底的に効率化された戦法で格闘ゲームで勝利し続けるというゲーマー=「ときど」という著者。
麻布中学→麻布高校→東大理1に進学し、研究者として論文を出せばタイトルを受賞する…そんなピカピカエリートがなぜプロのゲーマーとして活躍するのか、というテーマで書かれた本書。
僕が良かったと思う2点があって、それは↓
- 著者が大人になる過程が書かれているところ
- ”いい人”であることの必要性が書かれているところ
だった。
リアルと向き合う瞬間
最初に言っておくと、僕にとって”大人になる”というのは”自分以外の人のことを意識すること”だと考えていて、そこへたどり着くためには一度”現実に直面する”という過程を経ることが必要だと思う。
そういう意味で本書では著者が大人になるまでの過程が描かれていて、そこが面白かった。
冒頭から中盤まで小学校〜大学院のエピソードが書かれているが、10代の頃の著者の話では何よりも”勝つこと”だけに焦点を当て、すべてにおいて効率化することに重点を置いていたことが述べられている。
勉強にせよゲームにせよ、すべてを効率よくこなすことで最短距離で勝利にたどり着く。
これが著者のやり方であり、批判も軋轢も「勝てばいいんでしょ」とおかまいなし。
ところが大学院試の失敗をきっかけに「社会に出る」という選択肢と対峙し、それまでの自分が”何も考えないため”に何かに没頭していたことに気づく。
社会に出るっていうのはその人の”社会性”が試される経験だと僕は思っていて、学生から社会人になる時に感じるギャップは社会性が育まれていない人ほど大きいと感じる。
僕も含めてだけど…。
ゲーム三昧の人や成績優秀な文学青年が適応に苦しむ一方で元ヤンキーなんかが意外とスッと組織に溶け込んだりするのは”社会性”がうまく身に付いていのことだ。
挫折体験と言ってしまえば簡単だが、ゲーマーな上に東大まで行く頭脳の持ち主の人間にとってこの体験はかなりこたえただろうなぁ。
そんな著者が安定した職という選択になびきつつ、最終的にプロゲーマーの道に舵を切った訳だが、その選択を決定づけたのが”情熱”だったことも大きなポイントだと僕は思う。
物事を継続的に行うにあたって情熱って大切な概念なんだけど、社会性が比較的低い人ほど情熱があることが絶対条件になるんだと思う。
社会性が十分に育っている人はやっていることが少々楽しくないと感じていても我慢する賢さが身に付いているし、組織にいることの楽しさがそこにあれば続ける理由ができる。
やっていること自体に意義を見出せなくても組織という拠り所がそこにはある。
けど社会性の低い人はとかく思考が自分に向いているのでやっていること自体がその人にとって意義のあるものでないと続ける理由がなくなってしまう。
だから物事を続けるだけの意義がそもそもないと行動できないし、そのエンジンになるのが情熱なんだろう。
そして、プロになりお金を稼ぐプレイヤーとして活躍する中でただ効率的に勝つことだけじゃなく人を”楽しませる”ことに考えがシフトしていく。
挫折を経て大人になった著者の姿が過去との対比で描かれていて、物語として楽しめた。
オープンなコミュニケーションが必要!
良かった点の2つめの話。
冒頭の部分に戻るけど、書評の何が気になったかと言うと、本書ではプロとして強くあるために「いい人」である必要があると書かれていた点だ。
人に手のうちをみせる”いい人”の存在がコミュニティを活発にし、自分の成長にも寄与する。
内に籠ったイメージをまとう”ゲーマー”の著者がコミュニケーション力によって強さを高めようと試みている点が意外だったし、単純にカッコいいな〜と感じてしまった。
で、これを読んで梅田望夫の「WEB進化論」を思い出した。
LinuxというオープンソースのOSがインターネットの発展に伴う形で大きく進歩したという話。
それまではIT企業にとってソフトウェアのソースコード(プログラムが記述されたやつ)は企業秘密だったのだが、インターネットが登場して世界中のプログラマーがLinuxを自由にアップデートしていったことでLinuxが大きく発達したという。
内に籠ってせっせと鍛錬に勤しむより、他者と意見を交換し合いながら修練することの方が結果的に成長の底上げが期待できる。
そのことを著者のときどさんも語っていたのが印象的だった。
”いい人”としてコミュニティの中でノウハウを共有することが求められる。
だから、そのためにコミュニケーション力が必要なのだと、著者。
上の話と合わせて、ブレークスルーのポイントとして”社会性”が大きな役割を果たしているんじゃないかな、と思った。
”情熱”とか”いい人”とか、理系東大生のイメージからほど遠いところにあるワードが現在の彼を突き動かしているというところが新しく、グッと来るポイントだった。